元は裁判所勤務という変わった経歴の持ち主で、4、5年に一枚出すアルバムによってアルゼンチンの公的機関によるプロジェクト- ルータ・ナシオナル・カンシオン(歌の国道、地域毎選出されたアーチストが別の州に赴きコンサートを開催する)にもメンドーサ代表で選ばれたことのあるフアン・ルカンヒオリの浮遊感漂う3rdアルバム。ホセ・キローガ、トミ・レブレロ、アナ・プラダがゲスト参加。
かつてボサ・ノヴァに惚れ込んだフアン・ルカンヒオリはブラジルのプロデューサー、ルイス・クラウヂオ・ハモスのもと住み込みで師事を受けたこともあり、この影響が少なからず生み出す音楽に影響を与えていることは冒頭のタイトル曲のリズムからも察し取れます。そのほかにも後半に集まる佳曲群のひとつm-7"Luz" に参加するアナ・プラダの母国、ウルグアイのカンドンベをさりげなく取り入れていたり、サンバ(z)やチャカレーラもあり、根底には川沿い音楽の瑞々しく浮遊するエッセンスを持った優しくアコースティックな唄たちが並びます。15年の音楽活動の中で父親になり、最近ではスーフィーやマントラに傾倒、ステージにインドの鍵盤楽器ハーモニウムを持ち込んだりもしているというこのS.S.W.、よく言えば好奇心旺盛、または移り気な放蕩詩人なのでしょう。聴きどころはカホンとベースのみを従えたルカンヒオリのvo&g をメランコリーな対旋律で盛り立てるマヌエル・シーハのvlnとハビエル・セッコのcl、楽曲では同郷のミュージシャン、ホセ・キローガが参加したm-3 "Canciones"、前述のm-7"Luz"、川沿い音楽のエッセンスが最もよく現れたm-8"Artesanos de la presencia"、慈しみに満ちたm-10"Estrellita de papel"、深遠なe-bowの音色によく似合ったワルツm-11"Suspiros"、これらの詞的な佇まいが魅力です。